勝手なネーミングであるが,エッセーに取り組む方法として,@網羅的チェック法Aファクトトリガー法B吐出し調整法の三つが存在する。
@ 網羅的チェックリスト法 網羅的チェックリスト法とは,事前に教科ごとの論点すべてのチェックリストを準備していき,まずは,同チェックリストを使ってあげるべき論点を確認してから,論文を書きだすという方法である。
この方法の主唱者らは言う。「issue spotting =論点探しをしているうちは,どうしても論点落しが発生する。発送の逆転が必要だ。論点を探すのではなく,不必要な論点を落とす=issue droppingが大切だ。」と。定評ある,エッセー問題集通称The blue bookの著者Basickもこれに近い方法を推している。
Tortを例にすれば
□intentional torts
□battery □assault □false imprisonment ・・・
□strict liability
□animal □abnormal dangerous activity □products liability □nuisance
・・・・
といったリストを頭の中でまたは紙に書いて再現し,一つずつ当てはまるかどうかを確認し,当てはまった論点を書いていくという方法である。
理論的には完璧な作戦だと思ったのだが,残念ながら,私はこの方法を採用できなかった。
網羅的チェックリスト法を採用できなかった理由の一つは,上記リストを覚え込めなかったためである。ただ,この点は,頑張れば何とかなった可能性もある。
それ以上に,同方法を採用できなかった最大の理由は,チェックしている時間がなかったためである。この方法の主唱者らは,15〜20分チェックリストを用いながら答案構成を考えて,書き出すことを薦めている。
私も,その薦めに従い何回かは試してみたものの,私の英語力では,書き出す前に15〜20分を使ってしまったら,とても最後まで書き終えることはできなかった。長くても10分,できたら5分考えたら全速力で書き始めたい。そう思うと,この方法の採用は不可能であった(なお,ファクトトリガー法とのコンビネーションであるが,詳細なやり方は以下のサイトが説明しており,非常に参考になった。)。
https://www.makethisyourlasttime.com/issue-checking-not-issue-spotting/ A ファクトトリガー法 ファクトトリガー法とは,
・論点は必ず事実factと結びついている。
・カリフォルニア州司法試験の問題文には無駄に事実は記載されていない
→よって,問題文の事実をすべて使いきれば,全論点をあげることができる
という公理を前提として,問題文の事実を細かく分析し,それごとに推測される論点を検討していくという方法だ。
私が受験中大変お世話になった前川先生は極めて高度なレベルで過去問を分析している。
http://shinmeilaw.blog91.fc2.com/blog-category-9.html その分析方法は,ファクトトリガー法に近い。
同法の主唱者たちは,上記Basickも主張していたが,問題文に下線を引いていき,全ての事実を使い切っているか確認することを大切にしている。
これもまた理論的に素晴らしい作戦だと思うし,もっとも本質的な取り組み方であると思うのだが,残念ながら,この方法も私は採用できなかった。
大きな理由は,やはり時間の問題である。問題文をざっくり読むのではなく,一文一文アンダーラインを引きながらしっかり読んでいくという方法は時間がかかってしまう。さらには,この方法を実践するには,かなりの才能(勘)や練習(経験)が必要な気がしないでもない。事実と論点の多数の組み合わせを知っていないと,事実をトリガーに論点を引っ張り出すことはできない。しかし,そのようなものをきちんとまとめたアンチョコ的なものは見たことはなく,そうなると,どうしても勘と経験に頼る部分が大きそうである。
B 吐出し調整法 私が採用した方法は,いわば吐出し調整法ともいうべき方法である。一言で言えば,何も考えずに,書けることから書いていくという方法である。
問題を読み終わったら,まずは間違いなく関連する暗記済みのルール群and似たような問題をやった際に書いた論点の流れを, 問題を読み終わったらすぐに書き始める(吐出し)。
その後,問題を解いている中でor問題を解き終わって時間が余り見直をしている間に気づいた吐出しでは足りない点を補う(調整)という方法である。(立派な名前を付けるような方法ではなく,何も考えずに解いていくに近い・・・)
とにかく確実に書けることだけを書いてしまい最低限の答案を作成し,余裕があれば,問題文の特有の事実のチェックや,チェックリストに基づく論点落しがないかのチェックを行うという方式である。
例えば,実際に私が2019年2月の第2問をどう取り組んだかである。
http://www.calbar.ca.gov/Portals/0/documents/admissions/Examinations/February2019CBX_Questions.R.pdf この問題文を読めば,少し勉強していた人であれば,@動物占有者の無過失責任Aネグリジェンスが重要な問題であることは分かるはずだ。
私はAは典型論点で何度も流れで書いたことがあった,@はそこまで典型論点ではなかったがルールはすらすら書くことができる状態にあった。
そこで,まずは,事前に覚えていたそれらのルールを開始5分後からいきなり書き始めた。次に,同問題文を読んで適当に当てはめまで行っていった。これが「吐出し」である。
そして,加害者がどのような注意義務を負うかを論じているときに,ふと,「そういえば,庭に危険物を置いていて子供がけがをした問題で,不動産所有者の特別注意義務を論じるのを忘れて減点されたな。この問題もそうか!」と考え,不動産者所有者の特別な注意義務に関するルールを付け加えた。これが「調整」である。
さらに,MBEで,同じ敷地内であっても,立ち入り禁止の区域に入るとinvitee→trespasserに変わり,注意義務が変わるといった問題をしたのを思い出した。
「とすると,入ってはいけないという部屋に入ったところで注意義務が変わるのかな?」と考え,その点をさらに調整した(なお,この考え方は,誤りなのかもしれない)。
そうして一通りやったあとに,時間が余ったため,もう一度見直すチャンスが訪れた。そこで,網羅的チェックリスト法を少し試してみて,抜けている論点がないか確認してみた。するとすぐに,batteryが抜けていたことに気づき,そうなると他のintentional tortやそれらへのdefenseも問題となるのかなと思い,それらを少し書いたところで終了した。
とにかく時間がなかった私がとった苦慮の策であったが,エッセーで65点は狙わず,60点で良しとする自分にとっては,このようなやり方が良い方法であったと思う。
網羅的チェックリスト法と比べて論点を落とす可能性は高まる。しかし,そもそも,時間がなければ論点を思いついても書けないのであるから,論点を落とすリスクを避けるよりも時間を得るメリットを得た方が,書くのが遅い自分にとって有効であった。
ファクトトリガー法からすれば「司法試験で大切なのは,覚えてきた知識ではなく,いかに問題文から現場で考えることができるかだ。覚えた知識を吐き出すだけでは合格点は無理だ」と言われることになろう。確かにその通り,高い得点を目指すには適した方法ではない。
ただし,事実をトリガーにして論点を的確に思いつくというのは高度なレベルの作業だ。一方で,覚えてきたことをただ吐き出すのはレベルの低い作業である。
高度なレベルの作業ができる実力があれば良いのだが,私は,自分がそこまでには至っていないことを認識していた。そこで,まずはレベルの低い作業の精度をとにかくあげ,高度な作業(調整)は,「できたらラッキー,できなくても仕方がない」という姿勢で臨むことにした。
実際には,三つの方法は,それぞれバラバラに存在するのではなく,全ての人が三つの方法をミックスしてやっているのだと思う。問題は,それをどんな感じに混ぜ合わせるのか,自分に適したスタイルを見つけて,そのスタイルを磨く方向で勉強していくことだと思う。
私自身は,自分の能力とMBEで狙える得点を考え,吐出し調整法しかないという結論にたどり着いたが,受験直前になって,伝聞証拠の全類型や不法行為におけるディフェンスの類型など,限られた部分だけ,網羅的チェックリスト法も取り入れた。