2023年05月02日

人的管轄権(personal jurisdiction)

 PJことpersonal jurisdiction,すなわち「A州の裁判所はどんな場合に管轄があるのか?」「被告にどのような属性があれば原告はA州の裁判所に被告を訴えられるか」という問題が民訴では圧倒的に分かりづらいと思う。
 しかし,もっとも出題頻度が高く,もっとも難しい論点であり,きっちり抑えてしまう必要がある。

・基本最高裁判例ルールであり,成文法に基づかない。
・最高裁判例のルールが幅広く解釈でき,意味がよく分からない。
ため,PJルールについては,本によって,統一されていないという理解がまず重要だ。
 色々な本を読むたびに,違うことが書いてあって,混乱してしまう。

 しかし,カリフォルニア州司法試験においては,一般的にルールは重要ではない。ましてや,諸説あるPJルールについては,何を書いても正解であり,どんなものでもいいので,信用できる本に書いてある論点をまず覚えるという作業が必要になる。
 また,PJルールについては,最高裁が使った難解単語が良く使われ,それ同ルールを難しくしているのだが,それらの単語はキーワードである場合も多い。あきらめてそのまま単語を覚えた方が得策だ。

 受験界通説とやや異なるのだが,私なりの理解は以下の通りである。
(なお,厳密には,PJには,in personam jurisdictionとin rem jurisdictionがあるのだが,後者はほとんど試験に出ないので前者だけ覚えればいいだろうと。)

州法と憲法で定まる

 PJは,連邦裁判所においても、訴訟が提起されたA州の法律によって決まる。PJは最高裁判例とルールと書いたが,実は一義的には,州法が定めるルールである。

 しかし,ハワイ州法が「ハワイの州民であれば,相手がどこに住んでいても,どんな事件でもハワイの裁判所に訴えることができる」という自州民ばかり利益を与えるものであっても良いのか?という問題がある。

 そこで最高裁は,基本的にはA州の法律によってPJは決まるが,憲法上の限界があり,上記のハワイ州法のような法律は憲法違反として許されないとした。
 よって,PJは@州法の範囲内でA憲法の範囲内である場合に認められるということになる。

 Aの範囲を決めるのが最高裁判例ルールであるわけだが,そちらがより重要なのである。
 しかも,カリフォルニアを含めて多くの州では,「相手がどこに住んでいても,どんな事件でも,憲法上の限界の範囲内で,うちの州の裁判所に訴えることができる」(long arm statute)という州法を作っている。
そうなると州法の限界=憲法上の限界となり,最高裁判例がそのまま州ルールになる。
 ただし,理論的には@州法の範囲内かA憲法の範囲内かの両方が論点となり,@についても原則としてエッセーには書くことが要求される。

伝統的には?
 伝統的には,@被告の本籍地(ドミサイル),A被告が送達を受けた州,B被告が同意をした州にのみ管轄が認められるとされてきた。これらについては,どの州も管轄を認めており,憲法上も問題がないことは争いがない。
 そのため,エッセーで,このあたりの論点で切れることはまずないのが,あっさりとであっても触れる必要がある。

憲法上の限界
 最高裁は,憲法上の限界について「伝統的なフェアプレー精神と実質的正義」"traditional notions of fair play and substantial justice."を害さないだけの最小限の接触minimum contactsがあれば,PJは認められるとした。
 分かりづらく,ほとんど意味のない定義だが,エッセーでは書いておいた方がよさそうだ。
 ただ問題は,どれだけ接触があれば,正義を害さないかである。

 この点,最高裁は二つに分けて論じている(ここからやや受験界通説の整理と違う。しかしsample answerにもあった整理であり減点されることはない)

一般裁判権 general jurisdiction
 一つ目は,事件の内容とは異なり,被告の属性だけで,認められるPJ,general jurisdictionである。
 最高裁によれば,when there are so systematic and continuous activity of the defendant in the state as to render the defendant essentially at home in the forum state. のときに認められるとされる。
 この定義もよく分からないし,実質的な意味はない。
 ただ、最高裁が一般裁判権に基づき管轄を認めているのは,本店がある場合や設立された州がある場合(伝統的に本籍地として管轄が認められる場合)ぐらいである。
 そのため,エッセーでこの論点でも切られることもまずないのであっさりと書いておけば足りる。

個別裁判権 specific jurisdiction
 よって,実際上エッセーで問題となるのは,ほぼ個別裁判権だけである。どんな「被告」ならばではなく,どんな「事件」ならPJが認められるかという問題だ。
 最高裁は,purposeful availment of the privilege of conducting activities within the forum Stateやらforeseeable to be haled into courtやら難解で分かりづらい単語で要件を定義する。

 availmentは辞書による「利益」の古語のようなのであるが,恐らくは「利用」という意味では使っているのかと思う。いずれにしても,個別の要件の定義は,適当な英語を丸暗記するしかないと思う。キーワードはpurposefulとforeseeableであり,この二つの単語さえ使えば,減点もないだろう。

 定義の意味は,最高裁もあまりはっきりさせていないため,諸説あるのだが,@同州との故意的接触から生じた事件で,A被告が同州で訴訟提起を予想可能である場合,という感じの意味である。
 この部分については,エッセーでは,あてはめに必要な事実がちりばめられていることが多い。そのため,あてはめ(あるいはあてはめている振り)をしっかりとする必要がある。

正義の概念 
 エッセー的には,最後に,「証拠の場所,他州での救済の可能性・・・などなど多数の要件から公平を害さないといえることがPJを認めるには必要」というルール※を書き,あてはめをする必要がある。
 要件を全部覚えて,きちんと当てはめをすれば高得点が狙える。しかし,そこまでやるのと非常に書くことが多くなってしまうので悩ましいところでもある。ただ,この部分,あてはめにそれなりの点数が振られている可能性も高いので,ルールをきちんと暗記していなくても,「公平か?」という点は,しっかりと記載すべきである。
 もっとも,最高裁がそのような付加的要件を課しているのかあまり明確でなく,この要件を考慮しないことも多い。そのため,エッセーでこの要件で切るべき問題(他の要件は満たすも本要件を満たさないのでPJは認められないという結論になる問題)はまず出ないだろう。
※1)burden on Defendant 2)Plaintiff's interest 3)interest of the Forum Stateを比較衡量するというのが分かり易くてよいと思っているが正解がなのかはよく分からない。

まとめるとPJは
 @州法+憲法の範囲内で認められる。
 A伝統的でない場合はミニマムコンタクトが憲法上必要となる。
 Bミニマムコンタクトはessentially at homeと言え一般的管轄がある場合以外は,purposeful availmentとforeseeabilityが必要。
 Cさらに諸要素を考慮して公平を害さないことも必要

ということになる。

 上記の通りまとめ方についは諸説あり,上記は受験界通説とは少し違う論理順である。しかし,ルールはいつものごとくいい加減でいいし,特に明快な判例がないので,上記で,ルールでの減点はない。
 ただ,いずれにせよ,@州法,Aミニマムコンタクト,Bessentially at home, purposeful availmentとforeseeability, C公平=fairnessの全てがissueとして点が振られているので,そのすべてに言及の必要があるという,大変な論点である。

 実は,民訴でおていは,出現頻度は低いが過去にも一度出されているvenueが論点になった場合が一番大変だ。
 法令上「PJがあればvenueが認められる」というルールがあるためvenueを全面的に論じるには,venue固有の論点をすべて論じるとともに,PJを全部論じる必要があり,非常に多くのことを論じる必要が出てくる。
 そのため,非常に大変なのであるが,同論点をすらすらと書けるようになれば,民訴civil procedureのもっとも困難なところを抜けることができる。
posted by 内田清隆 at 11:37| Comment(0) | TrackBack(0) | MBEについて

2021年06月23日

2021 July California Barexam(カリフォルニア州司法試験)出題予想

 最近予想があまりあたらず,結局はランダムに出題されるので,予想はやはりほぼ無意味という理解ではあるのだが,性懲りもなく予想しておこう。
★弁護士倫理  出題確率100% 
  本命:いつものごとく守秘義務と利益相反
  大穴:被告人が虚偽の証言を述べそうな状況での規律
     (弁護士秘密特権もからめて)
◎憲法     出題確率75%  
  ズバリ表現の自由 穴:広告的・営利的表現(弁護士広告)
◎不動産財産法 出題確率60%  
  easement or real covenant
〇刑事手続き  出題確率50%
  いつもの複合か意表のPL法
△遺言・信託  出題確率45%  
  クロスオーバーで,受託者の義務違反

勘で予想するより,https://smartbarprep.com/california-study-guides/を使って統計で予想を立てた方があたりそうかな・・・
posted by 内田清隆 at 15:44| Comment(0) | TrackBack(0) | MBEについて

2020年01月09日

MBEの時間管理


MBEの練習において,
 早くから時間を管理し,できる限り早く解くよう努力すべきだという説(速攻説)
 最初の内は時間を気にせず,1問1問じっくり考えるべきだという説(のんびり説)
の両方の意見を耳にして,どうしようかと迷った。
 私の場合は,結論的にはのんびり説でいき,1000問以上解き,ある程度自信がついてから,時間を測り,早く解くよう努力するようにした。

 私のようにロースクールに行かないで受験しようと思えば,試験の少なくとも1年前から勉強を開始する。しかし,速攻説を説く人は試験がかなり迫った状況で勉強を開始しているのだろう。
 そのような状況であれば,のんびりもしていられないのも理解できる。しかし,試験まで時間があるのであれば,のんびりした方が良いと思う。

 初期段階において重要なことは,正解することでも早く解くことでもなく,問題から何を学べるかだ。
 しかし,急いで解くだけでは「できた!」「間違えた!」と一喜一憂するばかりで何も学べない。じっくり問題と解答を読み,時間をかけて考えるという作業を通すことで,問題からいろいろ学べるのだと思う。
 そもそも,日本人の多くは,初期段階で,1問1分48秒で解くのはとうてい不可能だと思う。にもかかわらず,時間を測ってしまうと,できないことばかりが気になってしまい,むやみに慌ててしまいそうだ。

 私のイメージでは,時間をかければ6〜7割は正解できるようになってから,時間を気にすれば十分だと思う。(AdaptiBarやBarmaxを利用すると,勝手に時間を計測されてしまう。そのため,アダプティバーを最初から使うべきではないとも思う。)

posted by 内田清隆 at 16:21| Comment(0) | TrackBack(0) | MBEについて

MBEの練習素材再考

S&T for the MBE
 エマニュエルのStrategies & Tactics for the MBEがMBEの勉強素材として,一番高い評価を受けていることは間違いない。悪く言う人を聞いたことすらない。私も一番高く評価している。
 よって,まずは,これを勉強をすべきであろう(もっとも1巻,2巻があるのだが,第2巻の評価は分かれる)。アプローチについての丁寧な説明,丁寧で一貫した解説,受験生が間違えやすい点についての細かな指摘,現状ベストな素材であろう。

Barbri?それともAdaptiBar?
 次に,何をすべきなのかは,結構争いがある。大きくは,バーブリ派とアダプティバー派との対立である。 
アダプティバー派は,
  @創作問題ではなく実際の問題に近い(バーブリは無駄に難しい)
  A携帯端末で利用できる
  B自動的に時間を測ってくれたる
   正解率をまとめてくれる
   といった便利な機能がある,
と主張する。

一方で,バーブリ派は,
  @アダブティバーの過去問は古く現在のMBEの問題と合っていない
  A本試験は手書きでアダプティバーのように携帯端末利用は本番に即していない
  Bアダプティバーは解説が雑である
などといった主張をする。 

アダプティバー派が優勢であると認識しているが,僅差かもしれない。

@の問題が本番に即しているのかは重要な問題だが,日本の司法試験と異なり,試験委員会は毎年の問題を公表していないので,比較は難しい。
私の感覚では,アダプティバーの方が本番に即していた気もするが,一度受けただけの感覚では,あてにはならない。ただ,いずれにしても微差であり,気にするほどのことはないと思う。

アダプティバーの方がやや解説が雑なことは確かだ。しかし,丁寧な解説は読むのも面倒で,コンパクトな解説の方がありがたい面もあり,この比較も難しい。

凝り性なので私も色々と調べたが,結論としては,どちらも大差なく,好きな方で勉強すればいいと思う。
(なお,アダプティバーもバーブリも,そしてエマニュエルも民訴については,本番と明らかに問題の傾向が違う。そのため,NCBEが出している公式過去問集をやるのがベストらしい。とはいえ,私は上記素材だけで勉強し,それほど不足も感じなかった。)

posted by 内田清隆 at 16:16| Comment(0) | TrackBack(0) | MBEについて

2019年10月08日

MBEで高得点をあげるには

 エッセーは人間が採点するので,かなり主観的に採点されているというのはよく聞く話だ。その証拠に,first readとsecond readで,点数の差が著しかったという話もよく聞く。
 私は,そもそも英語力の問題でessayで高得点をあげるのは不可能であったが,採点者の主観的判断によって運悪く合格できないといった事態を避けるためにも,MBEで高得点を目指すというのは,必要な戦略なのであろう。

 私は,最終的には,MBEで高得点をあげられるようになったと思うし,掲示板などを見てみると,MBEで苦戦している人も多く,MBEでの高得点が合格できた大きな理由の一つであったと思う。

 私が取り組んだのは,多くの人と同様Adaptibar, Emanuel, Barbri問題集である。3000問ほどやったが,MBEは一定のパターンがあるので,まずは多くの問題に取り組むことが大切だと思う。 

 それ以前に重要なことは,当然のことながら,各科目をきちんと理解していることかと思う。Emanuelは,MBEに必要な様々な「技術」を教えてくれるし,多くの問題をやることで様々なコツ=技術が身につく。
 しかし,小手先の技術で5〜10問は正解を増やすことはできても,基本的な理解がなければ,限界があることは当然だ。
 高得点を取るためには,まずは,講義を聞いたり,基本書を読んで判例を読んだりという当たり前の勉強をして「理解」することが重要ではないかと思う。

 自分としては,他の受験生よりやったのでは?と考えていることは,分からない部分を時間をかけて調べるという行為である。
 平均1日20問を解いたが,問題を解いて回答を見るという作業は1時間で終わらせた。一方で,復習は1時間,場合により2時間,3時間とかけてじっくり行った。
 理解できないことがあると,根本に戻り,条文・判例・論文を調べ,それらをまとめてノートに書いて,同ノートをきれいにまとめ,定期的に復習するという作業である。
 受験直前は,そのような遠回りの作業に時間をかけ過ぎたかと思い反省していたが,遠回りなようでもそれが高得点に結びついたのかもしれないと受験が終わってから思ったりもした(一方で,やっぱり遠回りだったかなとも思っており,よく分からない)。

 なお,そもそもとしてMBEで何点を目指すのかという目標設定が重要だと思う。
 私は,とにかく英語力の問題でエッセーに自信がなかったため,MBEでどうしてもかなりの高得点が取れないと合格はあり得ないと思っていたので,MBEで高得点を目指す勉強に相当の時間をかけるしかないと思っていた。
 しかし,エッセーで70点が取れるのであれば,MBEは6割できればいいと考えることができるのであれば,上記のような勉強は,遠回り過ぎかもしれない。
posted by 内田清隆 at 15:02| Comment(0) | TrackBack(0) | MBEについて