2020年01月09日

エッセーへの三つの取り組み方

 勝手なネーミングであるが,エッセーに取り組む方法として,@網羅的チェック法Aファクトトリガー法B吐出し調整法の三つが存在する。

@ 網羅的チェックリスト法
 網羅的チェックリスト法とは,事前に教科ごとの論点すべてのチェックリストを準備していき,まずは,同チェックリストを使ってあげるべき論点を確認してから,論文を書きだすという方法である。
 この方法の主唱者らは言う。「issue spotting =論点探しをしているうちは,どうしても論点落しが発生する。発送の逆転が必要だ。論点を探すのではなく,不必要な論点を落とす=issue droppingが大切だ。」と。定評ある,エッセー問題集通称The blue bookの著者Basickもこれに近い方法を推している。

Tortを例にすれば
□intentional torts
□battery □assault □false imprisonment ・・・
□strict liability
□animal □abnormal dangerous activity □products liability □nuisance
・・・・
といったリストを頭の中でまたは紙に書いて再現し,一つずつ当てはまるかどうかを確認し,当てはまった論点を書いていくという方法である。
 
 理論的には完璧な作戦だと思ったのだが,残念ながら,私はこの方法を採用できなかった。
 網羅的チェックリスト法を採用できなかった理由の一つは,上記リストを覚え込めなかったためである。ただ,この点は,頑張れば何とかなった可能性もある。
 それ以上に,同方法を採用できなかった最大の理由は,チェックしている時間がなかったためである。この方法の主唱者らは,15〜20分チェックリストを用いながら答案構成を考えて,書き出すことを薦めている。
 私も,その薦めに従い何回かは試してみたものの,私の英語力では,書き出す前に15〜20分を使ってしまったら,とても最後まで書き終えることはできなかった。長くても10分,できたら5分考えたら全速力で書き始めたい。そう思うと,この方法の採用は不可能であった(なお,ファクトトリガー法とのコンビネーションであるが,詳細なやり方は以下のサイトが説明しており,非常に参考になった。)。
https://www.makethisyourlasttime.com/issue-checking-not-issue-spotting/ 
 
A ファクトトリガー法
 ファクトトリガー法とは,
・論点は必ず事実factと結びついている。
・カリフォルニア州司法試験の問題文には無駄に事実は記載されていない
→よって,問題文の事実をすべて使いきれば,全論点をあげることができる
という公理を前提として,問題文の事実を細かく分析し,それごとに推測される論点を検討していくという方法だ。

 私が受験中大変お世話になった前川先生は極めて高度なレベルで過去問を分析している。http://shinmeilaw.blog91.fc2.com/blog-category-9.html
 その分析方法は,ファクトトリガー法に近い。
 同法の主唱者たちは,上記Basickも主張していたが,問題文に下線を引いていき,全ての事実を使い切っているか確認することを大切にしている。

 これもまた理論的に素晴らしい作戦だと思うし,もっとも本質的な取り組み方であると思うのだが,残念ながら,この方法も私は採用できなかった。
 大きな理由は,やはり時間の問題である。問題文をざっくり読むのではなく,一文一文アンダーラインを引きながらしっかり読んでいくという方法は時間がかかってしまう。さらには,この方法を実践するには,かなりの才能(勘)や練習(経験)が必要な気がしないでもない。事実と論点の多数の組み合わせを知っていないと,事実をトリガーに論点を引っ張り出すことはできない。しかし,そのようなものをきちんとまとめたアンチョコ的なものは見たことはなく,そうなると,どうしても勘と経験に頼る部分が大きそうである。

B 吐出し調整法
 私が採用した方法は,いわば吐出し調整法ともいうべき方法である。一言で言えば,何も考えずに,書けることから書いていくという方法である。
 問題を読み終わったら,まずは間違いなく関連する暗記済みのルール群and似たような問題をやった際に書いた論点の流れを, 問題を読み終わったらすぐに書き始める(吐出し)。
 その後,問題を解いている中でor問題を解き終わって時間が余り見直をしている間に気づいた吐出しでは足りない点を補う(調整)という方法である。(立派な名前を付けるような方法ではなく,何も考えずに解いていくに近い・・・)
 とにかく確実に書けることだけを書いてしまい最低限の答案を作成し,余裕があれば,問題文の特有の事実のチェックや,チェックリストに基づく論点落しがないかのチェックを行うという方式である。

 例えば,実際に私が2019年2月の第2問をどう取り組んだかである。
http://www.calbar.ca.gov/Portals/0/documents/admissions/Examinations/February2019CBX_Questions.R.pdf
 この問題文を読めば,少し勉強していた人であれば,@動物占有者の無過失責任Aネグリジェンスが重要な問題であることは分かるはずだ。
 私はAは典型論点で何度も流れで書いたことがあった,@はそこまで典型論点ではなかったがルールはすらすら書くことができる状態にあった。
 そこで,まずは,事前に覚えていたそれらのルールを開始5分後からいきなり書き始めた。次に,同問題文を読んで適当に当てはめまで行っていった。これが「吐出し」である。

 そして,加害者がどのような注意義務を負うかを論じているときに,ふと,「そういえば,庭に危険物を置いていて子供がけがをした問題で,不動産所有者の特別注意義務を論じるのを忘れて減点されたな。この問題もそうか!」と考え,不動産者所有者の特別な注意義務に関するルールを付け加えた。これが「調整」である。

 さらに,MBEで,同じ敷地内であっても,立ち入り禁止の区域に入るとinvitee→trespasserに変わり,注意義務が変わるといった問題をしたのを思い出した。
 「とすると,入ってはいけないという部屋に入ったところで注意義務が変わるのかな?」と考え,その点をさらに調整した(なお,この考え方は,誤りなのかもしれない)。

 そうして一通りやったあとに,時間が余ったため,もう一度見直すチャンスが訪れた。そこで,網羅的チェックリスト法を少し試してみて,抜けている論点がないか確認してみた。するとすぐに,batteryが抜けていたことに気づき,そうなると他のintentional tortやそれらへのdefenseも問題となるのかなと思い,それらを少し書いたところで終了した。

 とにかく時間がなかった私がとった苦慮の策であったが,エッセーで65点は狙わず,60点で良しとする自分にとっては,このようなやり方が良い方法であったと思う。

 網羅的チェックリスト法と比べて論点を落とす可能性は高まる。しかし,そもそも,時間がなければ論点を思いついても書けないのであるから,論点を落とすリスクを避けるよりも時間を得るメリットを得た方が,書くのが遅い自分にとって有効であった。

 ファクトトリガー法からすれば「司法試験で大切なのは,覚えてきた知識ではなく,いかに問題文から現場で考えることができるかだ。覚えた知識を吐き出すだけでは合格点は無理だ」と言われることになろう。確かにその通り,高い得点を目指すには適した方法ではない。

 ただし,事実をトリガーにして論点を的確に思いつくというのは高度なレベルの作業だ。一方で,覚えてきたことをただ吐き出すのはレベルの低い作業である。
 高度なレベルの作業ができる実力があれば良いのだが,私は,自分がそこまでには至っていないことを認識していた。そこで,まずはレベルの低い作業の精度をとにかくあげ,高度な作業(調整)は,「できたらラッキー,できなくても仕方がない」という姿勢で臨むことにした。

 実際には,三つの方法は,それぞれバラバラに存在するのではなく,全ての人が三つの方法をミックスしてやっているのだと思う。問題は,それをどんな感じに混ぜ合わせるのか,自分に適したスタイルを見つけて,そのスタイルを磨く方向で勉強していくことだと思う。

 私自身は,自分の能力とMBEで狙える得点を考え,吐出し調整法しかないという結論にたどり着いたが,受験直前になって,伝聞証拠の全類型や不法行為におけるディフェンスの類型など,限られた部分だけ,網羅的チェックリスト法も取り入れた。

posted by 内田清隆 at 16:39| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセーについて  

古い法律

 「burglary」は伝統的には夜に行われることが要件であったが,現在では多数の州で同要件は廃止されている。
 「de fact corporation」という伝統的な法理は,ほとんどの州で放棄されている。

 このように古い法律と新しい法律で内容が異なる場合,どのようにしたらいいのであろうか?

 理想的には,両方を書いた方がいいに決まっていて,それが加点になる場合も多いのであろう。
baressaysの採点基準だけから判断すると,前者のburglaryの要件のように「多くのアウトラインに古いルールも新しいルールも出ている場合」は両方書いた方が加点になる,一方で後者のde fact corporationのルールのように「多くのアウトラインには古いルールしか出ていない」場合には新しいルールを書いても加点にならないという扱いのように思えた。

 ただ,あるかないか不明のわずかな加点を求めて両方のルールを書けるのは,エッセーで時間が余ってしまう猛者だけの話。
 凡人は,とにかく一つのルールを覚えてそれを書くというのが合格への早道のようだ。

 もっとも,そもそも法律によってルールが違う場合の対応は,あまり気にする必要はない。
 多くのエッセー問題で,古い法律と新しい法律で要件が違う場合,どちらでも結論が変わらない事例が出題されることがほとんどであり(絶対ではない),その論点が浮かび上がらないようにしている。
 また,ルールはいい加減でいいというのがカリフォルニア州司法試験の大原則なので,どちらでもいいので,自信をもってどちらかのルールを書けば,獲得点数に大きな差がつくこともない。
posted by 内田清隆 at 15:43| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセーについて  

点数の知り方


 自分が試みに書いたエッセーが本番で何点をとれるのかは非常に気になるところだ。

 barbri, その他予備校では本番よりも厳しい採点が行われていると聞く。厳しく採点すると危機感を持ち,もっと予備校教材を購入してくれるからとも・・・
 私が非常によく使ったbaressays.comの採点も,非常に厳しい採点がなされているように感じたが,利用者が少ないのか同調するような意見はネット上では見つからなかった。それでどれだけ不安に思ったことか。

 いずれにしても,予備校その他他人に採点してもらっても,その点数についてはあてにはならない可能性が高い。
 そうなると一番あてになるのは,やはり実際に採点された回答である。
 上記baressays.comでは,実際に50点であった答案から80点をとった答案まで,色々な答案を見ることができるので,どの程度の答案を書くと,何点取れるのかはある程度は理解することができる。
 それを見ることが,合格答案のレベルを知る一番の方法であると思う。

 もっとも,自分の答案が何点なのかは気になるにしても,いずれにしてもやるべきことを頑張るだけで,自分の答案の点数をあまり気にしても,仕方がないのかと思う。
 baressaysにしてもBarbriにしても,元公式採点者が採点してくれるのが普通であり,実際と非常に近い方法で採点されていることは間違いがないのであろう。そのため,点数はあてにならなくても,評価の仕方は十分にあてになる。
 だとすれば,何点であるかはともかく,良い点をとるように努力していくことが大切なことであると思う。
(そういう私は,採点してもらうたびに,その得点に一喜一憂を激しく繰り返していたのだが・・・)

posted by 内田清隆 at 15:31| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセーについて  

何通の答案を書くべきなのか

 エッセーの練習において,実際に答案を作成するという練習が重要であることは争いがないと思われる。では,何通ぐらい書くのが適当なのであろうか。
 ネットで,色々な意見を調べたが,1科目5通程度は練習したい(でも時間の関係で3通しかできなかった)といった意見が多数であるように感じた(ただしMBEの問題を何問やるべきかについての意見と比べると,全体的に意見が少ない。)。

 Basickの問題集でも,barbriの問題集でも1科目あたり5〜6問であり,自分の感覚でも5〜6問あれば,頻出重要論点はカバーできる。
 そう考えると,上記意見は正鵠を射ているのであろう。

 ただ私は,1科目10問ずつほど実際に書いてみたし,もう少し書いても良かったと思っている。理由は二つ。
 一つ目の理由は,英語力に不足があったからである。私はなかなかエッセーで必要な量を1時間で書けるようにならなかった。そのため,内容以前に,ともかく書く練習が多く必要であった。
 もう一つの理由は,勉強する時間があったからだ。100問実際に書いても要する時間は100時間,同じ時間復習するとしても200時間に過ぎない。ロースクール卒業後に勉強を開始した人と比較して,私にとって200時間が全勉強時間に占める割合は大きなものではなかった。

 結局のところ,何通の答案を書くべきかは,人によって大きく違うのだろう。「書くことには問題がないがイシュースポッティングに問題がある」人であれば実際に書くよりも,多くの問題に触れることが重要であろう。また,時間がない状況であれば,実際に書くよりも多くの問題に触れることが効率的である可能性も高い。

 なお,1科目5問ほどやれば,頻出重要論点はカバーできるとしても,当然のことながら,過去に出題された全ての論点に触れられるわけではない。
 そしてカリフォルニア州司法試験においては,過去に出題された論点が再度出題される可能性は非常に高い。
 そのため,実際に書いてみるのは1科目5通で足りるとしても,できる限りたくさんのエッセーに目を通すべきことは間違いがない。
posted by 内田清隆 at 15:09| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセーについて  

2020年01月06日

エッセーにあげるべき「ルール」

日本の司法試験では,少数説を書いても構わないと言われていたが,カリフォルニア州司法試験では,受験界通説でルールを書かないといけない。

受験界通説でなくても多くの州で採用されているルールであれば,本来,減点されることはないはずである。
しかし,カリフォルニア州司法試験の採点者をそこまで信用はできない。
多くの人と違うルールを書いていると,採点者の知識不足によって,あるいは採点者がよく解答を読んでくれないことによって,シンプルに間違っていると判断され減点されるリスクは高い。
もちろん減点されない可能性もあるのだが,あえてそのようなリスクを取る必要は全くない。
カリフォルニア州司法試験において,ルールには大きな点が配点されていないので,大きな問題ではないが,できる限り受験界通説を書くように努めることが重要だ。

注意すべきは,受験界通説は「カリフォルニア州司法試験コモンロー」とも揶揄される,実際にはアメリカのどの州でも適用されていないルールの場合もあるということである。
そのため,いくら基本書を読んでも,裁判例を読んでも,根拠が不明の受験界通説もある(つまりは間違っている受験界通説もある!)。

しかしながら,そうであっても,皆が書くような受験界通説をルールとして書くべきであり,実務上の通説を書いてはいけない。この点は,よくよく注意する必要がある。
例えば,de fact corporationという法理を採用している州はないと思われるが,絶対のルールであるかのようにessayでは書かないといけない。
それが受験界通説であり,それを批判しても時間の無駄だ。

私は,過去の採点者が採点しているbaressays.com の練習エッセーで,tortでrestatement通りのルールを記載したり,professional responsibilityでABAルールをそのまま記載して提出したのだが,きちんと採点してもらえないことが続き,ようやくそのことに気づいた。
カリフォルニア州司法試験は「落とす試験」である。
大切なのは,正しいことを書くことではなく,皆が書くであろうことを書くことである。

私は,personal jurisdictionだけは,どうしても,受験界通説に納得がいかなかった。
調べてみると,sample answerでも様々な説があり,さらにある講義ビデオで様々な説を許容しているというのを聞いて,最終的にも受験界通説で書かなかった。
しかし,今思えば,そんな無駄な努力をせずに,最初から受験界通説を叩きこんでおくべきであった。

tortに関しては,受験界通説とは異なるルールを最初覚え,その後,修正を繰り返したのだが,結局,きちんと修正ができなかった。
そのため,マイ・アウトラインでは,受験界通説とも少し異なり,とはいえrestatementそのままでもない,独自の説になってしまった。
ルールには大きな配点はなく,独自の説であったとしても,大した問題はない。
ただ,初めから「エッセーは受験界通説で書くもの,受験界通説を知ってから他の説を勉強しましょう」と教えてもらえていたら,もう少し効率が良かった。

  
posted by 内田清隆 at 17:49| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセーについて