2020年01月09日

勉強のベクトル


 合格のためには,合格に向けて正しい方向で勉強することが必要となる。
 比喩的であるが,合格に向けて真直ぐに勉強するのと比較し,45度勉強方向がずれれば,ルート2=約1.4倍余計に勉強が必要となり,60度ずれれば2倍余計に勉強量が必要となる。
 それ以上ずれてしまえば,合格は非常に遠くなってしまう。

 人はそれぞれ異なる以上,ロースクールを出たとしても,多くの人と同じようにバーブリ等の予備校の言う通り勉強するのが合格に真直ぐに向かう勉強であるとは限らない。しかし,多くの人がそのような勉強をしているのであり,60度も方向がずれてしまうことは稀であろう。

 ところが,予備校のやり方は,@英語ができてAロースクールで米国法の基本を学んだ人に向けたやり方だ。米国ロースクールに通わずに合格しようとした場合,英語力によって,あるいは英米法の理解によって,そのやり方が全くあてにならない可能性も高い。

 しかも,ロースクールに通わずに受験しようとしている日本人であっても,英語量も,米国法の知識も,確保できる勉強時間も,多様性は高い。そのため,別の受験生がやっているやり方を真似することが,最善のやり方かどうかは把握が困難である。

 そのため,ずれていないのか常に意識し多くの情報を集めることが必要であるし,また,できる限り早めに実際の問題を通じて合格のために必要とされる事項を理解することも重要である。

 私も相当無駄な勉強をしたが,感覚的にはずれは15度以内に抑えることができ,かなり真直ぐに勉強ができたと思っている。そうできたかなりの部分は運であるが,とにかく,ずれた勉強をしてしまうリスクが非常に高いという認識は重要であると思う。

posted by 内田清隆 at 16:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 勉強法一般

カリフォルニア州司法試験の難易度


 カリフォルニア州司法試験は全米で一番難易度が高いと言われており,合格率も近年は3〜4割,外国人弁護士受験生については1割強しかないのが通常,非常に難易度の高い試験のように思えてしまう。

 しかし,カリフォルニア州のロースクールを3年かけて卒業した人たちの6〜7割は,一回で合格している。それを考えれば,必ずしもそう難易度の高い試験ではないのだと思う。
 
 もちろん,多くの日本人にとっては言葉の壁があるし,ロースクールに行っていないとなるとさらに文化的なあるいは情報収集に関する障壁が大きく,非常に難易度は上がる。しかし,もともとの難易度はそれほどでもないという認識は必要だと思う。

 カリフォルニア州司法試験においては,他の受験生と差をつけようとしたり,自らの知性を示そうなどとしたりしてはいけない。あくまでも,多数派と同じようにしておくのが無難である(日本の司法試験でもホームラン答案を狙ってはいけないと言われた。それと比較するのであれば,カリフォルニア州司法試験では,毎回送りバントのイメージである。)。
 それは,なぜかと言えば,この試験が,「良い人間を選ぼう」とする試験ではなく,多数と同じ能力に達していない人を「落とそう」とする試験だからである。当たり前のことを当たり前にする能力,それが試されている。

posted by 内田清隆 at 16:50| Comment(0) | TrackBack(0) | その他

日本人ノート


 主にニューヨーク州司法試験であるようだが,「日本人ノート」なるもので勉強している受験生が多数いるようだ。
 私は,「日本人受験生の知り合いがいないのでそんなものは入手できなそうだが,入手しないと不利になるのか?」などと最初悩んでいた。
 結論からいえば,あって損ではないだろうが,なくても大したマイナスはないと思う。

 ネットで調べてみると,韓国人の世界では「韓国人ノート」が出回っているようだし,当然ながら「アメリカ人ノート」はその何十倍も出回っている。
 
 その中で,あえて日本人ノートを勉強素材として利用するメリットは,日本語での説明があるため,理解が早いという点であろう。
 しかし,日本語の方が,確かに理解は早いのであるが,一方で,英語力取得には遠回りであり,利用したほうが近道かどうかは微妙なところである。

 文化的にあるいは日本法との違いのために,特に日本人が理解しづらい概念を丁寧に説明されているのであれば,かなり使い勝手は良い。しかし,見ていないのでわからないが,そのような高度な説明をコンパクトにまとめたノートを期待するのは難しいであろう。

 なお,日本人ノートにしてもアメリカ人ノートにしても,あるいは予備校作成のアウトラインについても,「内容に間違いがある」「内容が古い」と指摘する人がいる。
 しかし,あまり気にする必要はないと思う。確かに,間違いのないノートはないであろうが,ルールは多少間違えたとしても,点数に与える影響は少ないからである。重箱の隅はつつかない,いや,重箱の真ん中であってもつつかない,大ざっぱでアメリカンな態度が,カリフォルニア州司法試験では重要だ。(it sucks...)

チューター(個別指導教師)の利用

 
 アメリカ人の多くが,司法試験の勉強法の選択肢の一つとして,チューター(個別指導教師)の利用をあげており,また利用している人も少なくなさそうである。

 最初,私は,個別指導を受けるためには,カリフォルニアに住んでいる必要があると思い込んでおり,チューターの利用は眼中になかった。
 しかし,実際には,考えれば当然だがSkype, 電話,メール等を通じて,日本にいながら個別指導を受けることも可能である。
 また,情報についても,インターネットで調べれば,かなりの情報を得られるので,日本にいながらして良いチューターを選ぶことも不可能ではなさそうだ。
 費用的にも,少し調べた限り,大手予備校と比較して高いともいえず,必ずしも高額というわけでもないようだ。

 途中でそれに気づき,チューターの利用も考えたのだが結局はトライしなかった。
 大手と異なりチューターとなると当たり外れが大きそうで不安があったからである。
もっといえば,仮に詐欺でも,相手がアメリカでは,訴えることも現実的に不可能であり,「騙されたらいやだ〜」という思いもあった。

 しかし消極的だったと,今は少し反省している。
 ロースクールにも行かず,予備校にも行かず,一人で勉強していると,世界が広がらない。
 カリフォルニア州司法試験をを受験したのは単に合格に意味があるのではなく,その中で世界を広げることに意味があると思ったからであり,騙されたら騙されただと開き直って,試しに少しやってみてもよかったのかもしれない。

posted by 内田清隆 at 16:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 勉強法一般

エッセーへの三つの取り組み方

 勝手なネーミングであるが,エッセーに取り組む方法として,@網羅的チェック法Aファクトトリガー法B吐出し調整法の三つが存在する。

@ 網羅的チェックリスト法
 網羅的チェックリスト法とは,事前に教科ごとの論点すべてのチェックリストを準備していき,まずは,同チェックリストを使ってあげるべき論点を確認してから,論文を書きだすという方法である。
 この方法の主唱者らは言う。「issue spotting =論点探しをしているうちは,どうしても論点落しが発生する。発送の逆転が必要だ。論点を探すのではなく,不必要な論点を落とす=issue droppingが大切だ。」と。定評ある,エッセー問題集通称The blue bookの著者Basickもこれに近い方法を推している。

Tortを例にすれば
□intentional torts
□battery □assault □false imprisonment ・・・
□strict liability
□animal □abnormal dangerous activity □products liability □nuisance
・・・・
といったリストを頭の中でまたは紙に書いて再現し,一つずつ当てはまるかどうかを確認し,当てはまった論点を書いていくという方法である。
 
 理論的には完璧な作戦だと思ったのだが,残念ながら,私はこの方法を採用できなかった。
 網羅的チェックリスト法を採用できなかった理由の一つは,上記リストを覚え込めなかったためである。ただ,この点は,頑張れば何とかなった可能性もある。
 それ以上に,同方法を採用できなかった最大の理由は,チェックしている時間がなかったためである。この方法の主唱者らは,15〜20分チェックリストを用いながら答案構成を考えて,書き出すことを薦めている。
 私も,その薦めに従い何回かは試してみたものの,私の英語力では,書き出す前に15〜20分を使ってしまったら,とても最後まで書き終えることはできなかった。長くても10分,できたら5分考えたら全速力で書き始めたい。そう思うと,この方法の採用は不可能であった(なお,ファクトトリガー法とのコンビネーションであるが,詳細なやり方は以下のサイトが説明しており,非常に参考になった。)。
https://www.makethisyourlasttime.com/issue-checking-not-issue-spotting/ 
 
A ファクトトリガー法
 ファクトトリガー法とは,
・論点は必ず事実factと結びついている。
・カリフォルニア州司法試験の問題文には無駄に事実は記載されていない
→よって,問題文の事実をすべて使いきれば,全論点をあげることができる
という公理を前提として,問題文の事実を細かく分析し,それごとに推測される論点を検討していくという方法だ。

 私が受験中大変お世話になった前川先生は極めて高度なレベルで過去問を分析している。http://shinmeilaw.blog91.fc2.com/blog-category-9.html
 その分析方法は,ファクトトリガー法に近い。
 同法の主唱者たちは,上記Basickも主張していたが,問題文に下線を引いていき,全ての事実を使い切っているか確認することを大切にしている。

 これもまた理論的に素晴らしい作戦だと思うし,もっとも本質的な取り組み方であると思うのだが,残念ながら,この方法も私は採用できなかった。
 大きな理由は,やはり時間の問題である。問題文をざっくり読むのではなく,一文一文アンダーラインを引きながらしっかり読んでいくという方法は時間がかかってしまう。さらには,この方法を実践するには,かなりの才能(勘)や練習(経験)が必要な気がしないでもない。事実と論点の多数の組み合わせを知っていないと,事実をトリガーに論点を引っ張り出すことはできない。しかし,そのようなものをきちんとまとめたアンチョコ的なものは見たことはなく,そうなると,どうしても勘と経験に頼る部分が大きそうである。

B 吐出し調整法
 私が採用した方法は,いわば吐出し調整法ともいうべき方法である。一言で言えば,何も考えずに,書けることから書いていくという方法である。
 問題を読み終わったら,まずは間違いなく関連する暗記済みのルール群and似たような問題をやった際に書いた論点の流れを, 問題を読み終わったらすぐに書き始める(吐出し)。
 その後,問題を解いている中でor問題を解き終わって時間が余り見直をしている間に気づいた吐出しでは足りない点を補う(調整)という方法である。(立派な名前を付けるような方法ではなく,何も考えずに解いていくに近い・・・)
 とにかく確実に書けることだけを書いてしまい最低限の答案を作成し,余裕があれば,問題文の特有の事実のチェックや,チェックリストに基づく論点落しがないかのチェックを行うという方式である。

 例えば,実際に私が2019年2月の第2問をどう取り組んだかである。
http://www.calbar.ca.gov/Portals/0/documents/admissions/Examinations/February2019CBX_Questions.R.pdf
 この問題文を読めば,少し勉強していた人であれば,@動物占有者の無過失責任Aネグリジェンスが重要な問題であることは分かるはずだ。
 私はAは典型論点で何度も流れで書いたことがあった,@はそこまで典型論点ではなかったがルールはすらすら書くことができる状態にあった。
 そこで,まずは,事前に覚えていたそれらのルールを開始5分後からいきなり書き始めた。次に,同問題文を読んで適当に当てはめまで行っていった。これが「吐出し」である。

 そして,加害者がどのような注意義務を負うかを論じているときに,ふと,「そういえば,庭に危険物を置いていて子供がけがをした問題で,不動産所有者の特別注意義務を論じるのを忘れて減点されたな。この問題もそうか!」と考え,不動産者所有者の特別な注意義務に関するルールを付け加えた。これが「調整」である。

 さらに,MBEで,同じ敷地内であっても,立ち入り禁止の区域に入るとinvitee→trespasserに変わり,注意義務が変わるといった問題をしたのを思い出した。
 「とすると,入ってはいけないという部屋に入ったところで注意義務が変わるのかな?」と考え,その点をさらに調整した(なお,この考え方は,誤りなのかもしれない)。

 そうして一通りやったあとに,時間が余ったため,もう一度見直すチャンスが訪れた。そこで,網羅的チェックリスト法を少し試してみて,抜けている論点がないか確認してみた。するとすぐに,batteryが抜けていたことに気づき,そうなると他のintentional tortやそれらへのdefenseも問題となるのかなと思い,それらを少し書いたところで終了した。

 とにかく時間がなかった私がとった苦慮の策であったが,エッセーで65点は狙わず,60点で良しとする自分にとっては,このようなやり方が良い方法であったと思う。

 網羅的チェックリスト法と比べて論点を落とす可能性は高まる。しかし,そもそも,時間がなければ論点を思いついても書けないのであるから,論点を落とすリスクを避けるよりも時間を得るメリットを得た方が,書くのが遅い自分にとって有効であった。

 ファクトトリガー法からすれば「司法試験で大切なのは,覚えてきた知識ではなく,いかに問題文から現場で考えることができるかだ。覚えた知識を吐き出すだけでは合格点は無理だ」と言われることになろう。確かにその通り,高い得点を目指すには適した方法ではない。

 ただし,事実をトリガーにして論点を的確に思いつくというのは高度なレベルの作業だ。一方で,覚えてきたことをただ吐き出すのはレベルの低い作業である。
 高度なレベルの作業ができる実力があれば良いのだが,私は,自分がそこまでには至っていないことを認識していた。そこで,まずはレベルの低い作業の精度をとにかくあげ,高度な作業(調整)は,「できたらラッキー,できなくても仕方がない」という姿勢で臨むことにした。

 実際には,三つの方法は,それぞれバラバラに存在するのではなく,全ての人が三つの方法をミックスしてやっているのだと思う。問題は,それをどんな感じに混ぜ合わせるのか,自分に適したスタイルを見つけて,そのスタイルを磨く方向で勉強していくことだと思う。

 私自身は,自分の能力とMBEで狙える得点を考え,吐出し調整法しかないという結論にたどり着いたが,受験直前になって,伝聞証拠の全類型や不法行為におけるディフェンスの類型など,限られた部分だけ,網羅的チェックリスト法も取り入れた。

posted by 内田清隆 at 16:39| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセーについて